国際 韓国・北朝鮮 2021年12月16日
韓国で一番古い洋食レストラン
2021年11月30日。韓国・ソウル駅構内にあるレストラン「グリル」が96年の歴史に幕をおろした。この日本統治下で誕生したレストランはGHQにも排除されず、朝鮮戦争にも耐え、IMF危機も乗り越えてきたが、創業100年を目前に新型コロナウイルスと文在寅(ムン・ジェイン)政権がもたらした不況によって廃業を余儀なくされた。現地在住・羽田真代氏のレポート。
「グリル」は、1925年9月に竣工されたソウル駅(当時は京城駅)の2階に、高級喫茶店「ティールーム」と共に入店したレストランで、当時の東京駅の構造などを再現したものであった。
日本でもよく知られている通り、ソウル駅は日韓併合時に日本が巨額の財を投じて建設した駅舎だ。「グリル」では本格的な洋食を味わえるだけでなく、内装や食器も高価なものが使用された。当時、庶民には手が届かない高嶺の花レベルのレストランだった。
筆者は昔、韓国人に「韓国で一番古い洋食レストランがあるから行こう」と言われてこの「グリル」を訪れたことがある。ステーキ価格は4万7000ウォンから5万5000ウォン、「グリル」で人気のトンカツは1万6000ウォンだった(1ウォン=0.096円)。高嶺の花とまでは言わないが、日頃食べる韓国料理と比較すれば値が張る印象で、庶民がそう頻繁に通える店ではない。
韓国一のカツレツ
「グリル」で提供されるトンカツは日本でいうと、洋食屋で提供されるカツレツに近い(実際に「グリル」のメニューにも英語ではポークカツレツと表記されている)。豚肉とソースに味の深みが感じられ、韓国内でこのレベルのカツレツを提供する店は恐らく「グリル」しかなかっただろう。強いて不満点を挙げるとすれば、洋食に不釣り合いなカクトゥギという大根キムチが提供されたことくらいだろうか。
韓国ではうどんと同様にトンカツも国民食となっており、日本語がそのまま使用されている。と言っても、韓国人は“ツ”が発音できないから韓国式に発音すれば“トンカス”となる。
韓国の若者の中にはトンカツが韓国食だと誤認している者も少なくない。韓国・ソウル版のガイドブックを購入すれば“南山(ナムサン)トンカス”が紹介されているから、韓国人のトンカツ好きをご存じの日本人も多いだろう。これを国民食に押し上げたのは「グリル」の功績だと言っても過言ではない。
とはいえ、11月末で店を畳んだ「グリル」が、この96年のあいだ順風満帆だったわけではない。
親日派、米帝の手先で
開業後の50年間は40名の料理人を抱えて一度に200人が食事できる規模だった。しかし、経営を担う鉄道庁の放漫さと、競合となる飲食店が次々にオープンした煽りを受けて営業赤字が膨らみ、プラザホテルに経営権が移ったことがあった。これ以降オーナーが幾度か変わり、場所の移転などを経つつ、存続の危機に瀕しては何とか切り抜けてきたわけだが、今回のコロナ禍と「文不況」だけは乗り越えられなかったようだ。
「グリル」の閉店を受け、韓国内では「私の思い出も消えてしまう」「100年という偉業を成し遂げる前に店を閉めるなんてもったいない」「初めてステーキを食べた場所なのに……」「80年代に分厚い鉄板でジュウジュウと焼かれたハンバーグステーキの味は今でも覚えている」と惜しむ声がインターネット上に寄せられている。やはり、96年という歴史は多くの人の人生に影響しているようだ。
しかし、なかには「ここの店主たちは日本植民地時代には親日派、わ人の手先だったし……。米軍政時代、李承晩(イ・スンマン)時代は米帝の手先で……軍事政権下には独裁者側だったし……。こんな店はなくしてしまった方がいい」「老店というだけで存在価値がない。ちょっと有名だと思ったら高かったり、量が少なかったり……顧客に見放された店は淘汰される」という意見もあった。
「日帝残滓」の清算
文政権は誕生してから今まで熱心に反日運動を繰り広げ、日本製品不買運動を行うなど懸命に韓国内から“日本”を排除しようとしてきた。その政権下で、96年にわたってソウル駅に居座り続けてきた「日帝残滓」を清算することができたのだから、文大統領の政策を支持する人たちはすがすがしい気持ちでいっぱいかもしれない。
韓国の飲食店は開業後1年で40%が閉店し、5年後もサバイブしているのは僅か20%だ。2018年時点での新聞記事に「日本には100年以上続く老舗が2万2000店以上あるが、韓国には90店舗しかない」とある。「グリル」があったソウル駅の4階は高級レストラン街にリニューアル予定だという。「開業後1年で40%が~」の中に入らなければいいと願うばかりだ。
羽田真代(はだ・まよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、執筆活動を行っている。
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/12160600
0 件のコメント:
コメントを投稿